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週刊SPA!5月4日・11日合併号 ゴーマニズム宣言 第123章 「火の鳥、ブラック・ジャック、ナウシカ」

火の鳥、ブラック・ジャック、ナウシカ


 

タッチ&ゴー

このコーナーでは『ゴーマニズム宣言』の最新話を読み終えた読者が、間髪入れずの「タッチ&ゴー」で感想を語り合います☆

 

《収録参加》

皿:皿うどん

え:えみりん

カ:カレーせんべい

 

  

《収録》

2021年4月29

  

週刊SPA!5月4日・11日合併号

ゴーマニズム宣言 第123章

 

火の鳥、ブラック・ジャック、ナウシカ

 

 

 

カ:今週のゴー宣は、タイトルの通り【火の鳥】【ブラックジャック】【ナウシカ】が取り上げられていました。

 

 

え:【ブラックジャック】は読んだことがあるんですが、【火の鳥】は読んだことがなかったので、「永遠の命」をテーマにした深い漫画なのだと初めて知りました。

 

 

カ:小林よしのり先生の死生観に影響を与えたというのだから驚きました!

 

 

皿:火の鳥の作品を通じて、小林先生は『永遠の命なんてものはない!ただ生き永らえたいと自分の命のみに執着する行為は、醜悪でしかない!』と悟ったわけですね。

 

 

カ:小林先生のコロナ論を批判する人が『漫画でそんなことを描くなんて、手塚先生が見たらどう思うことか!』と言ったらしいけど、何から何までデタラメで、インチキが度外れていますね!

 

 

え:人の死生観にまで影響を与えるような漫画が、昔は、少年誌に載っていたことはすごいと思いました。

 

 

カ:【ブラックジャック】は少年チャンピオンに掲載されていたんですね。

 

 

え:今は、そんな深く考えさせられる漫画は無いんじゃないでしょうか?

 

 

カ:青年誌であれば【闇金ウシジマくん】や、【ブラックジャックによろしく】など社会に影響を与えるような作品はときどき出てきていますけどね。しかし少年誌では掲載できないですよね。

 

 

◆◆◆

 

 

カ:私は【ブラックジャック】を読んだことがないのですが、今週のゴー宣を読んだら『高額な手術代を吹っ掛け、悪徳医師のように見られている。しかし、それは逆説的に、自分の愛する者の命を救う覚悟を問うているのだ』とあってすごいと思いました。それは欺瞞を暴くわけだから。

 

 

え:そうですね。

 

 

カ:どうしても現代の終末医療のことを考えてしまいますね。今の終末医療の問題点は「保険で出来てしまう」ことだと思っています。もし保険が適用されないとしたら、「家族があと2か月延命するために、家族は家を売ることができるのか?」という問いかけが発生するわけです。

 

 

皿:なるほど。

 

 

カ:もっと欺瞞を排するならば「延命治療のために売春することができるのか?」と考えてもいい。そうすれば「そもそもそんな負担をかけることをやっていいのか?」という答えにもたどり着くことでしょう。つまりお金を通して物事をリアルに考えることができると思うんです。

 

 

皿:ブラックジャックの恩師・本間丈太郎の最期の言葉で『人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね』というのも重たいですね。

 

 

カ:結局、人間には限界があるってことだと思うんです。人間がやれることには限界がある。限界を認めて諦観することは虚無主義とは違うと思うんです。

 

 

◆◆◆

 

 

皿:玉川徹が「徹子の部屋」に出た時に、『1万年くらいは生きたい』と発言したのは本当なんでしょうか?

 

 

カ:ここまで来たら、清々しいよ、玉川徹!!

 

 

え:(失笑)

 

 

カ:もういいよ玉川徹は。ある意味、裏表が無いほどに正直者のキャラクターしてるよ。

 

 

皿:玉川徹って58歳とかでしょ?【火の鳥】とか【銀河鉄道999】とか見て育った世代だと思うんですけど、なんとも感じなかったのかな?

 

 

カ:【風の谷のナウシカ】の漫画版には、長寿手術をして生き永らえる存在が登場するんです。「ヒドラ」という存在です。

 

 

皿:漫画版にはそんなのがいるんですね。

 

 

カ:それは「友に全て先立たれる」という不幸でもあるわけなんです。

 

 

皿:そうですよね。

 

 

カ:おそらくナウシカからも影響を受けているであろう【ゼノギアス】というテレビゲームがあるのですが。

 

 

え:ファイナルファンタジー7と同じ時期に製作された、プレステで発売されたRPGですよね。

 

 

カ:【ゼノギアス】の中で、ある国家元首が、激しい恨みの持って滅ぼした他国の政治家達に復讐するために行った手段が・・・実は『延命手術』だったんです。

 

 

皿:うわー。

 

 

カ:つまり「死なせない」というのは、復讐の手段になるくらい残酷なことなんですよ。

 

 

え:そうですよね。分かります。

 

 

カ:玉川徹なら「やったラッキー!延命手術してくれちゃった♪」と喜ぶんでしょうね!

 

 

皿:あははは。

 

 

◆◆◆

 

 

カ:今週のゴー宣は漫画がテーマになっていますから、これは皿うどんさんに聞かないと始まらないですよね(笑)

 

 

皿:僕はオタクはオタクなんですけど、そこまで漫画オタクっていうわけでもないです。どちらかというと「ヒーローモノ」を好んで見ていましたので。

 

 

カ:あら、そうでしたか。

 

 

皿:でも【火の鳥】は、昔、劇場版アニメになったことが2回くらいあって、僕が小学生の頃に、火の鳥の「未来編」がアニメになっていたんです。

 

 

カ:かれこれ40年近く前ですね(笑)

 

 

皿:その後、僕が高校生くらいの時にアニメになったのが、火の鳥の「鳳凰編」というやつです。

 

 

カ:へー、色んなカテゴリーがあるんですね。

 

 

皿:「黎明編」は「漫画少年」版と「COM」版があるんです。

 

 

カ:同じタイトルでも違う雑誌から出ているんですか?

 

 

皿:今週のゴー宣で描かれていたのはCOM版で、よしりんが中学生の時に読んで衝撃を受けたと。COMに【火の鳥】が掲載されていたのは1969年や1970年です。

 

 

カ:ほー。

 

 

皿:「漫画少年」に掲載されていたのは、もっと前で、よしりんが1歳の頃とか、そんな昔のことです。

 

 

カ:同じ火の鳥「黎明編」というタイトルでも、掲載される雑誌ごとに内容が違うんですか?

 

 

皿:「漫画少年」の内容を変えて「COM」に載せていました。たとえば日食の内容で間違っていたところなどはCOM版で直していました。

 

 

カ:リメイクみたいなものですね。

 

 

皿:「黎明編」の話は深くて、ナギという主人公のお父さんが重病にかかってて火の鳥の生き血を飲めば助かると分かって探し求めるんです。そして生き血をもらって帰ってきたときには父親は亡く、それで火の鳥の生き血をナギと妹のナミが飲むことになるんです。その後、村は豊かな土地へ移ろうと船を出すのですが、嵐で難破してナギとナミは島国に流れ着きます。その島国が古代の日本なんです。ナギとナミは火の鳥の血を飲んでいるので死なないから、原住民に神様としてたたえられるわけです。

 

 

カ:なるほど。つまりナギとナミというのは神話の「イザナギ」と「イザナミ」のことだと言うわけですね。

 

 

皿:そういうことです。原住民から天照大神の名前をもらいます。その後、原住民の卑弥呼と出会い、卑弥呼が天岩戸に入るところで話が終わってたはずです。

 

 

カ:火の鳥の黎明編は、神話をモチーフにしたエンターテインメントだったんですね。

 

 

皿:火の鳥は、手塚治虫のライフワークのような作品なので、話が沢山あるんです。どの話も共通するテーマとして「不老不死の火の鳥の生き血」を求めて争ったりすることですね。火の鳥というのは超自然的な力を持っているので、古代人は火の鳥にはかなわないし、未来の化学兵器が発達した時代の人間も火の鳥にはまったく歯が立たないわけです。

 

 

カ:なるほど。

 

 

皿:火の鳥に翻弄される人間を、火の鳥は神様のような視点で上から見ているわけです。

 

 

カ:そういう漫画だったんですね。

 

 

皿:僕はアニメしか見ていないのですが、アニメは漫画を端折って作られたようなので、漫画を読んでいる人はもっと詳しいと思います。

 

 

◆◆◆

 

 

カ:たった今、皿うどんさんに【火の鳥】がどんな漫画なのか概略を教えてもらいましたが、少なくとも「ヒューマニズム」とは違いますよね。

 

 

皿:今週のゴー宣で取り上げていましたが、手塚治虫自身の言葉として『自分の漫画は根本的に「ペシミズム(悲観主義・厭世主義)だ』と言ってたわけですからね。

 

 

カ:そうだったんですね。

 

 

皿:まさに『永遠の命なんてものはない!ただ生き永らえたいと自分の命のみに執着する行為は、醜悪でしかない!』というのが【火の鳥】のテーマです。そして手塚治虫の他の作品にも同様のテーマが受け継がれているわけです。

 

 

カ:小林よしのりがコロナ論で「基礎疾患のある老人がコロナで死ぬのは、寿命だから仕方ない」と描いたら、『漫画でそんなことを描くなんて、手塚先生が見たらどう思うことか!』と批判する人は矛盾と欺瞞だからけです!おおかた「手塚治虫は漫画の神様と呼ばれていたからヒューマニズムだろう。手塚治虫の名前を出せば漫画家に対してダメージを与えられるぞ」とでも思ったのでしょうね。

 

 

皿:それは権威主義ですね。

 

 

カ:権威を我田引水に利用する。私が最も反吐が出るたぐいの人間です。

 

 

◆◆◆

 

 

え:【ナウシカ】は映画で見たことがあるけど、ここまで深いテーマだと意識していなかったです。今の日本の状況と通じるものがあると思いました。

 

 

カ:そうですよね!本当に示唆に富んだ名作ですよね!

 

 

皿:カレーさんはナウシカのことになると熱いみたいですね(笑)

 

 

カ:私にとって【風の谷のナウシカ】は、人生で一番影響を受けた作品です!映画ではなく漫画版の方ですけど。

 

 

え:映画と漫画とでは何か違うんですか?

 

 

カ:今週のゴー宣で描かれている【ナウシカ】は映画版の内容です。腐海という巨大な虫が住まう森は毒ガスを排出していて、周囲の人間はガスマスクを装着しないと生けていけない。そこで軍事国家トルメキアが古代兵器の巨神兵を復活させて森を焼き払い、人間がマスクをせずに生きられる土地を取り戻そうとした。しかしナウシカは「森こそが土や空気を浄化している」ことを科学的に突きとめ、自然の復元力の方が人間の浅知恵に勝ると考えて、森と共に、毒や虫と共に生きていこうとするわけです。

 

 

え:そうですね。

 

 

カ:それの話は、漫画版の2巻途中までに過ぎないんですよ。

 

 

皿:あ、そうなんですか?

 

 

え:ナウシカの漫画は全部で何巻あるんですか?

 

 

カ:全部で7巻あります。特に最終巻の7巻が、宮崎駿の思想が剝き出しになって、神がかっていますから! あ、もちろん3巻から6巻も面白い! 戦争の迫力や、難民の悲惨さ、報復の報復の報復を繰り返す虚無。そもそも人を救うことは虚無との戦いなんです!

 

 

え:あ、熱いですね(笑)

 

 

カ:ある国が戦争に勝つために「菌」を兵器として開発するんです。「粘菌」と呼ばれます。兵器に利用するはずの粘菌が暴発したり、敵をせん滅するために焦土作戦を実行したり、人類はさらなる窮地に追い込まれます。しかし、たとえどんな形で生み出されたにせよ、命は命の力で生きています。その菌ですらナウシカは心を通わせてしまうんです。

 

 

え:すごいですね(苦笑)

 

 

カ:腐海や虫だけでなく、むしろ人間同士の争いで人が住める土地を失う人類。それでもやめられない戦争。政治と復讐心と虚無が入り乱れて誰も止めることができない。その辺りを6巻までに徹底的に書いています。そして7巻で今までのストーリーがひっくり返るような衝撃的な展開になります。

 

 

え:それはなんですか?

 

 

カ:「腐海は大地や空気を復元する」「王蟲は腐海という生態系を守る」「巨神兵は7日で世界を滅ぼした殺りく兵器である」というのは確かに『事実』です。しかし『真実』は「自然の復元力」や「殺りく兵器」とは全く真逆のところにあったんです!!

 

 

え:どういうことですか?

 

 

カ:これ以上は言えないので、是非とも、風の谷のナウシカの単行本を、ホームページからAmazonでお買い求めください(笑)

 

 

え:なんですか、それは!(笑)

 

 

カ:【風の谷のナウシカ】を映画版だけを見て名作だと言ってる人は早計です! とにかく漫画版を読んで欲しいです! 7巻を読んで欲しい! なんなら私がカネを払おうか? 「真実というどんでん返し」があって尚、作品のメッセージは1ミリも揺るがない、いや、むしろ強化されている! 最後の最後でナウシカ達が秘密にした「青の意味」を自分の頭で咀嚼して欲しい! これはね、そんな単純な話でも、意味ありげにハッタリかましてるわけでもないんですよ!!

 

 

え:はい。どうやら、収拾つかなくなりましたので、この辺でお開きにしましょう(笑)

 

 

皿:小林よしのり先生のゴーマニズム宣言を読んだ直後の感想座談会、タッチ&ゴー宣でした(笑)

 

 

カ:あ。「ゴー宣の座談会」だったことをスッカリ忘れてました(苦笑)


カレーせんべい、熱烈オススメ

コロナ禍の今、読むべき、不朽の名作

 

風の谷のナウシカ(全7巻)

 



【コメント欄】

座談会の感想や

ゴー宣についての感想をお寄せください。

コメント: 6
  • #6

    カシアス耕作 (金曜日, 20 8月 2021 00:27)

    ブラックジャックが医師会と対立する話も何度も描かれてましたね。私は少年時代母親がこの作品が大好きで全巻揃えていたので刷り込まれてしまって、新鮮味がなく、どちらかというと思春期に読んだ「るんは風の中」や「三つ目が通る」などの作品に愛着があります。
    ただ、アレだけこの作品が大好きな母がモーニングショーにかじりついていた現実がある。
    フィクションの世界で描かれた問題提起を現実の世界で活かせない人が殆どで、そうなるとそういう大多数の人にとってフィクションの持つ効力が発揮できないと言う点で「文化は不要」になってしまう面が強い訳です。悲しいですね、これはね。

    小林さんの作品で「昭和天皇論」はとても洗練されて官能的な愛を感じる一冊でした。
    それと同じように、このエピソードの回は崇高なる愛を感じる美しい話でしたね。芸術作品というものに圧倒的な感動を受けた人と受けてない人では熱量は違ってしまう。新作を作り続ける小林さんと偉大なる古典が繋がったとても美しい回だったと思います。この線で「昭和天皇論」と同じく「手塚治虫論」を小林さんが描いたら個人的には、堪らないですよね。読みたい!

  • #5

    ただし (日曜日, 30 5月 2021 01:13)

    皿うどんさん、コメント、どうもありがとうございます。

     一緒に仕事をしている時に、『ブラックジャック』の素晴らしさを熱く熱く語ってくれた先輩が居て、貸してもらえるという話しになったのですが、次に顔を合わせた時に、ボロボロだからダメだと断られてしまったのです。
    買うなら、文庫本ですね♪

    『火の鳥』は、勘違いしていたみたいですね。
    失礼致しました。
    皿うどんさんのおっしゃる通り、24時間テレビで見た他の手塚作品と、他の番組で見た『火の鳥』の記憶が混同していたのだと思います。
    今は、1度、見てみたいです。

  • #4

    皿うどん (月曜日, 24 5月 2021 23:50)

    >ただしさん

    座談会、読んで戴いてありがとうございます。
    「ブラックジャック」は文庫本サイズのものが出ていませんでしたでしょうか?
    ポリコレでセリフ差し替えとかにはなってしまっていると思いますが、もし入手するとしたら一番お手頃かなと思いました。
    火の鳥は、24時間TVではやっていなかったような・・・?
    24時間TVには昔はアニメ枠があって、手塚治虫氏のアニメや竹宮恵子氏のアニメが放映されていましたが、
    手塚治虫氏とスタッフが制作したアニメはスターシステム(他の漫画のキャラが他の作品にも出てくる)を採用しているため、いろんなキャラが一堂に会していました。
    SFを扱ったテーマの作品や、超生命体が出てくる作品もあったので、もしかしたらそれと勘違いされたのか、はたまた、金曜ロードショーなどで放映された時の記憶とごっちゃになっていませんでしょうか?
    「風の谷のナウシカ」については、カレー博士が一番詳しいと思うので私も発言は差し控えたいと思いますw

  • #3

    ただし (日曜日, 16 5月 2021 00:32)

    座談会、めっちゃ面白く、深かったです。座談会、いいですね☆♪ 過去のものも読ませて頂きます。

    『ブラックジャック』だけは読んだ方がいい、大傑作だと言う職場の先輩がいます。貸してはくれません。ボロボロだからダメだそうです。

    『火の鳥』は昔何度か、24時間テレビの中でアニメでやっていたのを覚えています。絵柄と雰囲気が自分には合わなくて、見たことはありませんでした。

    『風の谷のナウシカ』の漫画版を中学の時の生徒会長が全巻持っていました。カレーせんべいさんと同じく、漫画版を大絶賛する彼は、映画版を絶対に認めませんでした。宮崎駿も映画版は認めていないと知ってショックを受けました。映画版大好きな私は、いっつもケチョンケチョンに言われていました。
     大人になって漫画版を全巻借してもらい読みました。感想は、書きません。
    (^-^)

  • #2

    カレーせんべい (日曜日, 09 5月 2021 18:24)

    ≫1 えんがわさんへ
    コメントしてくださり、ありがとうございます\(^o^)/

    「ナウシカが好きな人に悪い人はいない」という定説の唯一の例外、カレーせんべいでございます(笑)

    「風の谷のナウシカ」は映画はよく見られていますが、原作を読んでいる人は少ないんですよね〜。

    「絵が見づらい」という意見もありますし、布教活動はなかなか難しいみたいです(笑)

  • #1

    えんがわ (土曜日, 08 5月 2021 17:38)

    カレーせんべいさんのナウシカ原作愛に激しく同意です。
    憶測ですが、よしりん先生も原作は読んでないかもしれませんので、ご確認されてはいかがでしょうか?先生のような感性の人が読んだら···。