投稿者:まいこさん
一郎という平凡な名を持つ男が油断ならぬキャラクターであることが、さらに鮮明になった第9話。
記憶を無くしつつ異形の存在と夫婦であり続けることが根幹になっている物語で、相手の所業の何処までを受容し続けられるかという人間関係の命題、ギリギリの綱渡りを、あっけらかんと後先見ずにやってのける一郎にハラハラします。
三人同棲を続けるための「説得」の翌朝、一郎が放つ言葉は看過できないものばかり。
薄幸の幼少期を皮切りに、手料理、瞼の母とのイメージの重なりや呼び方と、味覚、視覚、聴覚に渡って涙と共に心情を語る見開きページは、初心なターゲットをたぶらかす見事な御手本であり、いたいけな青少年たちが知っておくべきキラーワードに満ちていて。
今回は第5話で工藤漫殊が語った「私の親友が一郎さんに遊ばれて、捨てられて大変だった。」という経緯も明らかになりました。
彼女の指示により「私の親友」であるチーフアシスタントが「捨てられて」しまったとはいえ「すぐに代わりを探します」と応えた一郎の「代わり」とは「アシスタント」なのか「結婚相手」なのか…
そしてスランプに陥った工藤漫殊が「私の親友」に抱いていたのは、「友情」だったのか、「恋情」だったのか…
いずれにしても、当の工藤漫殊にも言い寄る一郎のサークルクラッシャーぶりに、馬壁狂太郎の言う「正直で軽い」ことの底知れぬ狂気を感じました。
ニニギノミコトに嫁いだコノハナサクヤヒメとイワナガヒメの如く、美醜の呪縛に囚われた姉妹は、求められ過ぎる不幸と、顧みられなさ過ぎる不幸に見舞われ続けています。
何処まで逃げても、父親の転写のごとく群がる者達が後を絶たない沙耶は、その不幸の元である美しい「カラダ」から抜け出る離人症によって正気を保っているように思われ、「カラダ」に戻らない選択をする時が近づいていることが、ひしひしと伝わります。
一方、命を賭けてまでも沙耶を救い、一郎の「説得」を受容し、身体能力と味覚に己の需要を特化してしまう蜜子の有り様は、顧みられなさ過ぎる経験が転じて圧倒的な芸術や業績を生み出す過剰適応の好例かもしれません。
その蜜子の研ぎ澄まされた野生が、またも躍動した一夜の描写。
凄惨で目を覆いたくなるはずの場面が、なんと静謐で美しい…と見入っていたところに、すぐさま、日々、カラダを張ってプロの力をゴー宣のために注ぎ込む方々を思わせる「茅根」組長、そしてIT「大須賀」社長の登場。
ここでもリアルとフィクションの越境を楽しませていただきました。
一人一人の心象までも懇切丁寧に描き込まれたキャラクターがひしめき合い、現実世界にも飛び出す勢いの『夫婦の絆』、次はいよいよ第10話ですね。20年来の夢である『夫婦の絆』の復活を叶えて下さった2023年、単行本をお届けいただく日も早く来ますように。
投稿者:リカオンさん
「夫婦の絆」は私にとって目が離せない漫画になってしまった。
第8話の終盤、冷蔵庫の灯りの前の一郎のシーンは凄い。
これはそのまま第9話の冒頭に回想され引き継がれている。普段は服で隠されていても、これでは本音が晒されてしまう。一郎の事を愛している蜜子の前で、一郎を大して愛してない沙耶を抱き、明け透けに見せつける。蜜子に対して残酷な仕打ちだが、一郎は焦ってはいるもののあくまでも軽い。
小林先生は一郎をご自分の分身とも言われるが、一郎は男の性と罪を表現しているのか。
第9話は野木一郎のダメっぷりがひどい。カレーさんの初見読みでは視聴していた男性陣のコメントで一郎を怖がる人もいた。その怖さの理由は何だろう。男性から見てもダメを通り越して倫理感のない怖さなのだろうか。
教え子と愛し合ったために転落して行く教師のドラマがあったけれど、一郎はそれと同じく分かっていてもズルズルと不幸に陥っていくタイプ? しかし一郎はあくまでも明るく軽薄。女性二人を翻弄している反省も自覚もない。半グレに襲われた二人を蜜子が助けに来た時、肩を落として座り込むヘタレの背中と情け無い表情。女性を守る実力も危険を感知し避ける能力もない。このヘタレの表現も私のツボにハマる。
一方蜜子は多少の嫉妬心はあるようだが信じられないくらい弱いジェラシーしかない。そして母性本能をくすぐる一郎は蜜子を健気といって振り回す。沙耶は自分の都合で蜜子を利用する一郎を非難し、蜜子に警告するが二人を止める事ができない。愛されていないのに一郎を尽くそうとする蜜子が愛おしい。
沙耶はなぜ愛しても無い男性に体を許すのか。
美人は決して得ではなく「夫婦の絆」の中では男を惹きつける女性の性、「よしりん御伽草子」の「かぐや姫」の中では女性の罪と描かれていた。
私の友人知人に美人でキャリアを持つ人が何人もいるが未婚だ。(合コンを繰り返して相手を探している人もいるが、キャリアを言った途端男性から相手にされなくなるらしい。女性のキャリアは男性にとって都合の悪い事なのだろうか?)沙耶もかぐや姫も美人でもてるが、愛が得られないという意味では未婚の友人知人も同義なのかも知れない。
沙耶の決断が、自分のために殺人を重ねる蜜子を守り、一郎の愛情を蜜子に向かわせるための自殺でない事を祈りたい。
神話ではニニギは美しく華やかな木花咲耶姫だけを選び、磐長姫を父親に返してしまったために永遠の命を失ったという。
「夫婦の絆」はもしもニニギ(一郎)が木花咲耶姫(沙耶)ではなく磐長姫(蜜子)を選んだら、真の愛と幸せを手にする事ができるのかという問いかけなのか。
夫を熱愛する妻との二人の暮らしは一見平凡で幸せそうだが、それは殺人や自殺した美女の記憶を失ってやっと担保されるかりそめの幸せ。だが、一郎は蜜子を愛せていない。そして一郎の記憶が戻ったら‥、ノーズクリップ刑事が全てを白日の元に晒したら‥、二人の生活は失われてしまうのか。それを乗り越えて蜜子が愛を得る姿を是非とも見たい。
だから、次の話が早く読みたくて、また掲載雑誌を買ってしまう。小林先生が命を削って描いておられるのを知りながら‥。
次号を楽しみにしております。
(管理人カレーせんべいのコメント)
女性読者の感想、すごく面白いです♪
そしてちょっぴり「怖い」のはなぜだろう?(苦笑)
一郎の振る舞いは、男性の私から見ても「さすがにヤバイ」です。
言葉や行動が「異様に軽い」にも関わらず、「案外マジ」だからです。
カラ手形をバンバン発行してしまうタイプですね。
ただ、それはそれで魅力的だったりしますが・・・。
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おおみや (土曜日, 30 12月 2023 19:49)
使えるものは何でも使うリミッターOFF、そんな場面はそうやって転がっているかもよ?として受け取りました。力と操縦術を兼ね備えた様に見えて弱点も明らかな蜜子、両方とも無い様に見えて実は周囲に作用する力が強くなっている一郎等々、濃く関わる関係性の面白さを毎回楽しませて頂いております。
叶丸 (土曜日, 30 12月 2023 15:20)
工藤漫珠元男性説固執論者の叶丸です(笑)。
先週の生放送でもコメントしましたが、漫珠は元男性だからと言う理由で差別されない実力の世界だからマンガ家になったのかもしれないと思いました。
マンガ家にとって連載の打ち切りは相当に重い事でしょうが、それが世の中に認められる途上の事だったとすれば、更に重く一郎に対する恨みもより深いものになるでしょう。
それからチーフが漫珠の親友だったとして、その理由は体に関係無く女性と認めてくれたからか、もしくは、チーフ自身もトランス女性だったりするのでしょうか?
最初の予想とはかなり違って来てしまいましたが、以上が現時点での漫珠の過去についての想像(妄想?)です。
リカオン (土曜日, 30 12月 2023 11:32)
まいこさん、カレーさんの感想を読んでさらになるほどと思うところありました。
沙耶は「離人症によって正気を保つ」
そうか、嫌な経験をしたのになぜ簡単に体を許すのか、そして妙に冷静なところ。少女時代から耐えられない仕打ちを受けると多重人格になったり、幽体が離脱して行為を受けている自分を離れて見ているという現象を説明する被害者とかいますものね。
蜜子は「顧みられなさ過ぎる経験が転じて圧倒的な芸術や業績を生み出す過剰適応」
なるほど、顧みられない故にそういう方向に転じるのか。認められようという心理が、振り向かせようという欲望となり、それでも認められないとまたそれが動機づけになり、いつの間にか他を圧倒するものを作り出すという事ですか。
カレーさんの「カラ手形をバンバン発行してしまうタイプ」まさにピッタリの表現ですね。とにかく目の前の欲さえ満足できればできない事、守れない約束も平気で言ってしまいそうです。やはり男性から見てもヤバイのかwww。
「ここにいると、俺の欠落したものを埋めてもらってる気がするんだよ。」のセリフを言う時の一郎の潤んだ目が‥危ない目だよねwww。こんなに自分の不幸を簡単にさらすのって、ヤバイ奴か同情かって相手を嵌めようという手口だよねwww。沙耶は見抜いてるけどwww。
蜜子みたいに強く一人で生きていけるタイプは逆に普通の日本男性とではカップルにはなれないのかも。少し頼りない男性との方が馬が合うのかも知れませんね。
ひとかけら (土曜日, 30 12月 2023 04:18)
一郎と沙耶が食卓についた時に料理の説明をする蜜子が美しくなってるのは気のせいでしょうか?一郎のダメっぷりが明らかになってるけど色んな女性と親密になってるあたり何とも言えない魅力があるのは事実なのでしょうね。やはり一郎と小林先生は一心同体です。
よしりん辻説法の後悔先に勃たずの文乃が工藤漫珠に似てるのも気になります。快楽主義的な生き方をする人の将来は心配で破滅の道を進む危険性も孕んでますね。人生綱渡りだが色んな女性に愛され支えられているという点でも一郎と小林先生は似ています。
真黒無造が全ての真実を明らかにして登場人物が全員不幸になる光景は見たくないなと願うばかりです。
リカオン (土曜日, 30 12月 2023 02:27)
カレーせんべいさん、採用ありがとうございます。
小林先生にブログに取り上げてていただき大変恐縮いたしました。
まいこさんの感想を読んで書き忘れたことを思い出しました。
チェブリンさんを悪役で出演させて欲しい旨のリクエストをうっかり失念していました。