「夫婦の絆」第12話の感想

 

投稿者:まいこさん

  

3人同棲を永遠に続ける方法が明かされた第12話。

生死の境を飛び越える際の、コンマ1秒で為した活劇からも、一郎の記憶喪失の原因が示されました。 

 

第11話で、沙耶が惨劇の舞台を帝国ホテル最寄の日比谷駅に選んだと知ったとき、ライトの建築を愛した三島由紀夫の言葉を想起しており、今回は、彼が命を賭しても求めてやまなかった真理を、数十年ぶりに描き出してくださったようにも感じました。

 

「この本は私が今までそこに住んでゐた死の領域へ遺さうとする遺書だ。この本を書くことは私にとつて裏返しの自殺だ。飛込自殺を映画にとつてフィルムを逆にまはすと、猛烈な速度で谷底から崖の上へ自殺者が飛び上つて生き返る。この本を書くことによつて私が試みたのは、さういふ生の回復術である。『仮面の告白』ノート」


痛快な呵々大笑を響かせる沙耶は、晴れて時空間を自由に行き来できる亡霊となり、「死の領域」にありながらも「生の回復術」を成功させてしまった歓喜を沸騰させています。

 

命の真理が彫り込まれた見開きは黒一色で描かれたとは信じられない迦陵頻伽が舞踊るごとくの煌びやかさ、これぞノワールの奇蹟だと思います。 

 

「残留思念を残すこと自体が恐るべき苦痛を抱え込む」にも関わらず「無への帰還」たる成仏をしないのは

私が蜜子にしてやれることは、亡霊となって見守ることしかないから!」

という強い動機からで、母性とは何であるかということも考えさせられました。

 

 

第6話での蜜子の母の「あんた、殺されるよ」、第10話での沙耶の母の「殺されたのは計画通り」は、読者の間で大いに物議を醸した問題発言であり、母性に対してどのような幻想を抱いているかを炙り出す試金石ともなりました。

 

沙耶が美しき肉体という檻から逃れ、蜜子を守ることも母性の発露であるとすれば、肉体を分かち生を与える麗しき愛と同時に、生殺与奪権を完全に握り締めた支配欲も強く感じます。

 

 蹂躙され続けたものの復讐としても成し遂げられた亡霊によって続いてゆく3人同棲は、第1話で示唆された「長い長い悪夢」に繋がってゆくのでしょうか。

 

恐ろしいけれど頁を開かずにはいられない『夫婦の絆』を読める愉楽に浸りつつ、次回を待ち焦がれております。

 

 


↓(スポンサーリンク)↓



コメント: 16
  • #16

    枯れ尾花 (土曜日, 16 3月 2024 14:25)

    一郎と蜜子が本当の愛で結ばれた時、沙耶が成仏出来る…呪いを解く唯一の方法は愛なのだ(かな?)
    それとクライマックスで真黒刑事が、どんな形で関わってくるのか…兎に角、楽しみです!

  • #15

    枯れ尾花 (金曜日, 15 3月 2024 22:39)

    先程、12話拝読出来ました。
    前回、私は「呪いもしくは愛」がこの作品のテーマになっているのかなあとの感想を持ちましたが、今回改めまして、より、愛が主要なテーマだと感じました。沙耶の死んで時空を自在に移動出来る能力、先生はひょっとしたらSF映画「インターステラー」からヒントを得られたのではないでしょうか?
    今、話題の「オッペンハイマー」の監督、「クリストファー・ノーラン」が以前制作された超大作でしたね。
    映画の中で地球の危機を救う為に宇宙に旅立った主人公が「愛は人間が発明したものではない。愛だけが次元や時間、空間を超える手助けをしてくれる。だから愛を信頼しなくてはいけない」というセリフがあるんです。そして、彼はまさに時間と空間を超えて地球にいる( 彼が地球から離れてからかなりの年月が経っている、ワープ航法を使ったりしたから地球との時間の流れが全く違ってしまっていた)家族のもとに自身の意識を移動出来たのです。

    この映画も愛がテーマだったんですよね。

  • #14

    kotyako (木曜日, 14 3月 2024 22:58)

    「夫婦の絆」第12話。
    私は前回、沙耶の自殺でショックを受けた一郎と蜜子は記憶を無くさなくては耐えられないですね、と書きましたが、読み違えていました!
    沙耶は自分の肉体を自ら破壊する直前に超常的、物理的な力で一郎の記憶を失くさせていたんですね。そして蜜子は霊体になった沙耶の存在を知り、喪失感より絆の一体感が進んだということでしょうか。
    沙耶のいる死後の世界はリアルにこんな世界ではないかという恐ろしいより厳しさに満ちた世界だと思いました。沙耶の願いはが蜜子と一郎が本当の「夫婦」になること。それが成就した時、やっと沙耶は成仏できるのでしょう。生きていても、死後も苦痛を抱えて蜜子を守る沙耶の姿は哀しくて、美しい。蜜子は罪を犯しても沙耶を守り、沙耶は幽霊になっても蜜子を守る。この姉妹の意思の強さと愛情が好きです。いっちゃんはかなり危うい性格ですが、蜜子といっちゃんが本当の夫婦として生きる姿を見たいし、そこに辿りつけたらいいなと思います。

  • #13

    リカオン (水曜日, 13 3月 2024 22:02)

    第12話の感想です。

    小林先生の作品の掲載されている雑誌同時発売でコンビニにてゲット。さて、どちらから読もうか迷ったがflashから開く。夫婦の絆の魅力に負けた!

    恐ろしい惨劇のシーンから始まった。しかし沙耶にとっては計算通りなのだ。ケダモノのような男たちから逃れ、蜜子を守るために死を選ぶしか無かったのだろうか。でも沙耶は歓喜に溢れ自由に時空を飛び回る。

    沙耶は自分の人生の目標とか希望は無かったのか。人生を楽しんだり、自分の夢をかなえるという事はなかったのだろうか。

    この沙耶の選択は男性にどう映るのだろうか。美しい女性を追い求めるあまり、女性をここまで追い詰めてしまうという事に。

    そして沙耶の目論見の先には、顔以外は完璧な女性の蜜子と軽薄を絵に描いた記憶喪失の男性が真実の愛を掴めるのかという壮大な実験。

    この作品を読むと私は今まで出会って来た、愛を得られなかった女性達を思い出すのだ。
    結婚を望んで何度合コンしても結婚できない美しい女性たち。
    結婚しても幸せな結婚生活が出来なかった女性たち。
    理想の男性と巡り会えなくとも子どもが欲しくてシングルマザーの道を歩んだ女性。

    男性は綺麗な女性に近づく、言いよる、求める。しかしたくさんの沙耶達を幸せにできない。
    むしろ綺麗である事は真の愛を得るには邪魔なのでは?真の愛とは何?本当にそんなものあるのだろうか?
    御伽草子のかぐや姫のようにあるいは鉢担ぎ姫のように、最終フェイスを被った方が、顔を隠して鉢を被った方が男性の本当の姿を見ることができるのではないか。

    そんな事を考えながら、新しい展開を楽しみにお待ちしております。

  • #12

    まいこ (水曜日, 13 3月 2024 20:39)

    来島起滅は、半世紀ぶりに名乗り、死亡した連続企業爆破事件の桐島聡容疑者もモデルなのかしらと。現代の事象を即座に取り入れる手法、凄いですね。

  • #11

    ひとかけら (水曜日, 13 3月 2024 20:38)

    えみりんさんの絵、ゴー宣という螺旋を回り続けるキャラとカレーせんべいさん、一際大きな、まいこさんが居る特徴的な絵ですね。よしりん先生と直系よしりんが圧倒的存在感で螺旋を見てるのも気になります。
    色使いが派手ながらも安心感があるのは何故だろう。

  • #10

    おおみや (水曜日, 13 3月 2024 20:24)

    文章に加えて世界観凝縮豪華仕様なイラスト、今回もまた凄いです。

    対する?鼻栓刑事のラスト5ページ半での「運を味方に、撒き餌を放り込み、協力者を引き寄せ、選択を狭めさせ、釣り上げる」邪悪ながらも痛快でした。流石にここまででは無いにしろ我が職場でのマスクバトル劇場ではそれとなく似た手法を使っておる身ですので尚更に感じられ。 よくやってくれた!真黒無造! 奇抜なモノを使った鼻栓使用連続爆破犯「わしは花粉症対策ですじゃ。」も面白かったです。マスク率カウントをしていてたまに奇抜なアイデアのマスク(らしきもの)の人を見かけて参りましたが、この来島起滅チョイスの人は未だに見てません。見る事が出来たなら楽しそうです。
    次回は杉花粉の時期は終わっている筈の4月23日発売号、それまで何度も読み返します。

  • #9

    ピエール (水曜日, 13 3月 2024 18:17)

    今週の夫婦の絆、安直な感想かもしれませんが、非常に面白かったです。

    第1話からの伏線回収も素晴らしかったです。一郎の記憶喪失、そういう経緯だったのか〜!沙耶の一瞬の行動が一郎を救ったわけですが、果たして…

    死後の世界、非常に示唆に富むものだと思います。死ぬことによって、時を超える…様々な作品で死後の世界が描写されますが、夫婦の絆の死後の世界はなぜかリアリティがあります。創作ではない、本当の死後の世界はこうなのかもしれませんね。

    真黒が赴任した島で発見した連続爆破犯、来島起滅。…来島恒喜!?…鬼滅!?笑
    よしりん先生の遊び心が、良い作品のスパイスになっているような気がします。

  • #8

    牛乳寒天 (水曜日, 13 3月 2024 17:58)

    まいこさんの文章力が凄まじいですね、深い考察本当に勉強になります。
    えみりんさんの絵も素晴らしいです。ミュシャ調の髪も、外国のコインのような横顔も気品の高さが伺えます。艶やかなグレイヘア、憧れます。

  • #7

    ひとかけら (水曜日, 13 3月 2024 17:50)

    永遠の3人同棲を続けるために一郎を突き飛ばし電車の先に飛び込んだ沙耶、血吹雪がリアルで即死間違いなしと思います。

    命も目的を達成するための1つの手段に過ぎないという凄絶さを感じます。一郎と蜜子の2人が死ぬまでの間、成仏せずに苦痛と戦いながら霊魂を現世に止めておく覚悟は立派ですが読者としては悲しさも感じてます。
    美人であるがゆえに数奇な人生を送ることになった自分の体、容貌が憎らしかったのでしょう。

    それにしても、真黒刑事が子供に嘘をつかせてまで元通り蜜子を追跡するために復帰するとは妄執を感じます。「バレ」たらコンプライアンス違反で始末書ところではないかも知れません。
    今後も期待します。

  • #6

    しおちゃん (水曜日, 13 3月 2024 12:57)

    名文家のまいこさん、さらに感想に磨きがかかりそうですね! 素晴らしいイラスト、特に髪の毛の光沢具合凄いです!

    イラスト眺めていて気分が明るくなります^_^

  • #5

    まいこ (水曜日, 13 3月 2024 12:13)

    投稿採用とコメントいただきありがとうございます。
    えみりんさんの新作がファンサイトに掲載されるだけで嬉しく、光栄にも大好きなミュシャの「黄道十二宮」に描き込んで下さって感激しております。ファクターM、ミュシャ、まいこと共に、偶然にも感想で言及した三島由紀夫のMとも重なり、巡り合わせの妙に感じ入っております。
    先生の作品のキャラクターさんたちの魅力、アール・ヌーヴォーの優美な曲線とポップアートの先駆けとなった華やかなデザインで、さらに際立っていますね。二十年来、恋焦がれた『夫婦の絆』と可愛い『おぼっちゃまくん』、特に沙耶の美しさには、やはり瞠目します。
    ファンサイトのファンでいて、本当に良かったです。えみりんさん、管理人さん、改めて感謝申し上げます。

  • #4

    あしたのジョージ (水曜日, 13 3月 2024 07:42)

    改めて、まいこさんの感想も凄いですが、えみりんさんのイラストも凄いですね。
    私にはどちらも真似できません。
    まいこさん脳内ワールドの全開ですね!
    (もしかしたらまだ半開かもしれませんが。)
    凄い人によしりん先生も愛されてるなぁと思いました。

  • #3

    リカオン (火曜日, 12 3月 2024 22:30)

    どっひゃ~!
    ミュシャ調の背景にまいこさんそっくりの似顔絵!
    えみりんさんすばらしいです!

    ツルハゲよしりんによしりんバンドのボーカルよしりん
    GIチョコにインデックスとまいこさんの要素がズラリ

    夫婦の絆のまいこさんの感想怖~い。でも迷路に迷い込む錯覚を感じます。
    明朝コンビニでFLASHとSPAを買いますが、
    FLASHのページを開く手が震えそうだ…

  • #2

    さとがえる (火曜日, 12 3月 2024 22:28)

    ファクターM、素晴らしいですね‼

  • #1

    あしたのジョージ (火曜日, 12 3月 2024 22:22)

    ファクターMのMは、まいこさんのMでしたか。
    しかもえみりんさんのイラストが入って‥‥
    これはおじさん一本取られたなぁ〜〜╮⁠(⁠.⁠ ⁠❛⁠ ⁠ᴗ⁠ ⁠❛⁠.⁠)⁠╭