「光る君へ」素腹の中宮と妹を面罵する兄

 

投稿者:まいこさん

 

「光る君へ」第18回、伊周(これちか 三浦翔平さん)の放った「素腹の中宮」という言葉に悍ましさを感じました。

 

【光る君へ】第18回「岐路」回想 「皇子を産め!」“定子のサロン”で苛烈な真実 「新楽府」の為政者批判を学ぶまひろ、のちに宮中で生かす?

https://artexhibition.jp/topics/news/20240505-AEJ2024326/

 

 

道長との権力闘争に敗れ、一歩後退した藤原伊周。あとは入内している妹の定子に、一条天皇の世継ぎを産んでもらい、天皇の外戚として復権を狙うしか道がありません。

 

とはいえ・・・。

“権力の亡者”を見事に体現した三浦翔平さんのド迫力の演技は見事でした。

 

父の道隆の晩年を思わせました。「素腹の中宮(子を宿さない中宮)、などと言われているのを知っておいでか」。

 

侮蔑のセリフも強烈でした。

 

「素腹の后」 公任も絡んだエピソードに登場

「素腹の后」という言葉をめぐっては、平安時代に成立した歴史物語「大鏡」に有名なエピソードがあります。

 

「光る君へ」のドラマでも中心的な登場人物のひとり、藤原公任の若い頃の失言をめぐるものです。

 

公任の姉の遵子が円融天皇の中宮になった際、得意になった公任は、やはり入内していた藤原詮子の実家、藤原兼家邸の前で「こちらの女御(詮子)はいつ立后されるのかな」と言い放ち、詮子と兼家の恨みを買いました。

 

遵子はその後皇子を産むことはなく、一条天皇の即位で母の詮子が皇太后になった際、今度は公任は詮子の女房からこんな言葉を投げつけられます。

 

信の内侍、顔を差し出でて、『御妹の素腹の后は、何処にかおはする』ときこえ掛けたりけるに (「大鏡 第二」から)

 

 

 

「皇子を産まない妹さんのお后は、どちらにおいでですか」と強烈なイヤミをお返しされたわけです。

 

公任もさすがにこれには参ったようで、以前の放言を反省し、「穴があったら入りたい」とシュンとしたそうです。

 

どっちもどっち、という悪口雑言の応酬です。嫉妬や虚栄心が渦巻く、宮廷の生々しい実情が垣間見える逸話でもあります。

 

歴史学者・服藤早苗さんの「平安朝の母と子」(中公新書)では、「素腹の悲哀」として、「入内する女性は、当然ながら出産を期待し、また周辺からも期待される。

 

しかし、子どもを産めない女性もいる。その女性たちは、たいへんな精神的負担を強いられることとなったであろう

 

(中略)

 

子どもが生まれないと、ほかの妻を作る口実にもなる。

 

男性による性的優位の中で女性に課せられる試練である」と述べられています。

 

 

***

 

公任(町田啓太さん)が詮子(吉田羊さん)に対して「いつ立后されるのかな」と言うシーンはドラマにはない代わりに、史実での公任の失言に対する反撃を、伊周に使わせたということになるでしょうか。

 

いずれにせよ、天皇の妃に対して、そして女性に対して、あまりにも失礼な言葉が発せられた状況が「大鏡」に記録されているのは、1000年前であっても、看過できないエピソードだったということ。

 

こんな台詞を聞いてしまったら、100年の恋も醒め果てますね。 

 

 

 

≪大河ドラマシリーズ≫

 

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「光る君へ」心と体は裏腹(2024.04.16) 

 

「光る君へ」藤原兼家の死がもたらすもの(2024.04.09)

 

「光る君へ」文字の階層(2024.04.03)

 

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コメント: 2
  • #2

    mantokun (水曜日, 08 5月 2024 23:54)

    この数ヶ月、仕事が忙しすぎてなかなかコメント投稿もできていませんが…。まいこさんの解説、いつもながら大変わかりやすく、読みやすく楽しいです!ゴー宣ジャーナリストブログの連載と共に興味深く読ませていただいています♪
    また、カレーさんもゴールデンウィーク返上のご多忙の中、サイト更新を続けてくださり、ありがとうございます。

    それにしても公任がそんな酷い言葉を詮子に投げつけていたとは…。普段古代史の本ばかり読んでいる私ですが、逆に興味が湧いて読んでみたくなりました(笑)大河ドラマも、今回は三浦翔平さん演じる伊周の憎たらしさったらなかったですね。(三浦さんの迫真の演技には拍手)

    この時代や源氏物語については、子供の頃からの趣味の読書や学生時代の古典の授業程度の知識しかありませんでしたが、実際に美男の役者さんが、ああも生々しく「男子を産め」と身内に迫り、吐き捨てる様を見ると、そのおぞましさに鳥肌が立つ思いです。

    しかし、これとほとんど同じことを日本人は雅子様に対してやってきたんですよね…。しかも本来皇族をお守りするべき立場の宮内庁が率先して追い詰めてさえいたのですから。ドラマを見ていて、いたたまれなくなりました。
    定子のこの後を思うと今から切なくなりますが、大河ドラマの展開によって、いかに男子出産圧力というものが醜く、非人道的なものか、多くの人々に伝わる状況になっていると思います。
    愛子さまサイトでも、女性誌が岸田首相が愛子天皇実現に動いているという記事を掲載したことが取り上げられていましたが、もし本当なら岸田首相の感覚は至極真っ当です。今年の大河ドラマによって、現実の皇位継承問題の歪さにようやく気がついた庶民が増えつつあるのでは?と期待交々感じています。

  • #1

    リカオン (水曜日, 08 5月 2024 23:31)

    伊周が定子に迫る様はゾゾっとしました。道隆とはまた違う迫力でした。大鏡にはこの様なシーンの記載もあるのですか。

    女性を政治の道具としか見ていないが、男子が産まれるかどうかで一族の命運がかかっているために必死なのでしょうか。それにしても醜い。

    NHK火曜夜10時からのドラマ「燕は戻って来ない」は不育症の女性と代理母の物語で、やはり女性は子を産む機械という事をイヤと言うほど押し付けられ、悩むシーンが見ていて辛いほどだ。

    これとNHKの朝ドラ「虎に翼」は女性差別と憲法、法律について考えさせられる。

    どうした?NHK!遠回しに外堀を埋めるように女性皇族にも関連するドラマが目白押し。
    国民の無意識下に女性問題、皇統問題、憲法について考えさせようとしているみたいに感じるのは私だけ?